ESSAY

もし又吉直樹が『火花ー美容師編ー』を書いたら

ESSAY | 2017.06.15

SHARE

「おい、徳永、今から見本見せるからよー見とけよ」
神谷先輩は、僕にそう言って、得意げにシャッシャッとハサミを二回鳴らした。

「はい、先輩の技術、盗ませていただきます!」

僕は、僕の教育係の神谷先輩につく、美容師のたまごだった。いつも営業が終わってから、黙々と髪を切る練習を重ねているが、この日は、突然の雨で、お客さんが少なくなったこともあって、特別に神谷先輩の施術風景を見学できることになったのだ。

「お客様、ご希望の髪型はございますでしょうか」

お客さんは、きゃりーぱみゅぱみゅみたいな髪型にしてくださいと神谷先輩に言った。

「きゃりーぱむぱむですか」

神谷先輩はきゃりーぱみゅぱみゅが言えなかった。これにはかなりプライドが傷ついたようだった。そして、あろうことか、いきなり前髪をバッサリいったのである。

「先輩、それ、もしかして、三戸なつめじゃないですかね」

神谷先輩は動揺していたのか
「事務所同じやんけ!」
とトンチンカンな受け答えをした。僕は
「そういう問題じゃないでしょ」
と冷静に突っ込んだが、神谷先輩の持つハサミは小刻みにふるえていた。

「もういいです!」とお客さんは怒って帰ってしまった。その姿を僕と神谷先輩は呆然と見ているしかなかった。

「おい、徳永、事務所同じやんけ!ってところ、おもろかったやろ?」
と神谷先輩はにっこり笑った。

「先輩、悪い冗談はやめてください」
と僕は、思わず強い口調で返事をしてしまった。

「徳永、こういうことがあるから、美容師は、技術さえマスターすればええってことではないねん。いろんな世間の常識や知識、教養とも言うな。それを身に着けとかなあかんねん。わかったな!」
やはり神谷先輩は魅力的で、どことなく憎めないところがある。

神田桂一 ライター/編集者

『POPEYE』『ケトル』『スペクテイター』『クイックジャパン』などカルチャー誌を中心に活動中。趣味は旅行。好きな地域は、中東と台湾。

さのゆりこ おじさんウォッチャー/イラストレーター

1988年生まれ。おじさんをメインに、人物モチーフのイラストを制作しています。オーダー似顔絵、挿絵、展示など。インスタグラムでは有名人の似顔絵を中心に公開中。

CREDITS
文:神田桂一
イラスト:さのゆりこ
TAGS

Find Your Beauty MAGAZINEの最新記事をお届けします

RECOMMENDED POSTS

FOLLOW US