SALON MODEL

普通の大学生から夢の「ar girl」になった人気モデルの秘密|もしもサロンモデルが居なかったら

サロンモデル、通称サロモ。美容師と作品づくりをするパートナーとして必要不可欠な存在だ。多くのサロモが所属する『Coupe』には、経歴、職種、十人十色の人生観をもったサロモたちがいる。

今回紹介するのは、雑誌『ar』をはじめ、多くのファッション誌で活躍するモデル・福地夏未(ふくち・なつみ)さん。くしゃっとした笑顔が魅力的で、現在は人気アパレルメーカー・トゥモローランドの社員としても働いている。インスタのフォロワーは4万5千人を越え(2018年7月現在)、モデル仲間たちからは「どのショットも絵になる」と憧れの的。目に力があり、やわらかさとエッジイさを兼ね備えている。

実は夏未さん、大のビール好き。休日は昼からビールを飲み、平日も夜は必ず一杯やるらしい。

「飲まないと一日終われない(笑)。夏は仕事のあと、缶ビールを飲みながら歩いて帰ります。で、家着いたらまた飲む! でも最近は身体に気を使って、ビールじゃなくて緑茶ハイを延々と飲んでます」

“身体に気を使って緑茶ハイを延々と飲んでます”という、ツッコミどころありまくりのパワーワードで取材は始まった。インタビューが酒の話で始まることは珍しいし、それがこのベビーフェイスから放たれるのだから、かなりギャップがある。夏未さんは酔うと饒舌になるらしいが、飲んでいなくてもすでに饒舌で、しかも声も低い。

本格的にサロモを始めたのは18歳の頃。進学のために上京してすぐ、原宿で声をかけられた。最初はじぶんのペースでサロモ活動をしていたが、とある悔しいことがあり、「絶対有名になる!」と決心したという。

「失恋したんです。当時付き合っていた年上の彼を見返してやりたくて」

以降、仕事を受ける頻度を急激に増やした。中途半端にやることは嫌いだ。ギャラが低い撮影もどんどん受けた。仕事は、やればやるほど増えていった。早朝に起きてサロン開店前に撮影。午前のうちにもう一本。日中は学校へ行き、サロン閉店後にまた撮影。そんなストイックな日々が続いた。

「中高6年間の吹奏楽部で根性がついたんだと思います。ガチの部活だったので。メンタルが体育会系なんですよね。ちなみにその頃はユーフォニアム(金管楽器の一種)っていう楽器をやってました」

学生時代をふりかえると、学校・モデル・ファッション系サークル活動の3つを生活の軸として、さらに飲食店でのアルバイトも掛け持ちするなど、スケジュールは常にいっぱいだった。しかし、大変だと感じたことはほとんどなかったという。

「撮影は好きでやっていただけで、わたしにとっては完全に趣味の延長だったんです。むしろそれがあるから他も頑張れるという感覚。確かに体力的にはきつかったし、しかも毎日飲むので(笑)たまに疲れることもあったけど、楽しいことばっかりでした」

酒の味を知っている人には共感してもらえると思うのだが、良い仕事をしたあとの酒は格別にうまい。毎日飲めるということは、逆に言えば、それだけ日々を充実させている証拠だ。バイタリティがなければ良い酒は飲めない。

そして現在は、前述したように会社員として働いている。モデルとしての経験値を見込まれてショップの販促を担当し、販売員として『エディション 表参道ヒルズ店』の店頭に立っている。だから、お店に行けば会うこともできる。アパレルの仕事は、夏未さんにとって小さい頃からの夢だった。

「母が服飾系の大学出身だったこともあって、小学生の頃からずっと服が好きでした。お母さんは主婦なんですけど、趣味でよく服をつくってくれて。それでわたしも好きになって、学生の頃はじぶんで服をつくることもありました」

服をつくることは好き。着ることはもっと好き。大学時代にファッション系のサークルに入り、ファッションショーをゼロからつくりあげた経験を通して、そのことを再確認した。大学では、芸術系の学部で油絵を専攻していたという。

「色彩を学べば、服飾に携わったときに活かせると思ったんです。服飾の専門学校に行くことも考えたけど、母のすすめもあって大学を選びました。一般社会で生きていくためには、服飾以外の勉強も必要ですよね」

ただし、進学については多少の後悔もある。

「周りに左右されずに自分の意見を押し通して専門学校に行った方がよかったんじゃないか。そう思うこともありました。でも、そういう気持ちがあったからこそ、無理してでも予定を詰めてモデルを頑張れたんだと思う」


夏未さんとCoupeとの出会いは、今から3年ほど前に遡る。Coupeが創業して間もない頃。夏未さんはすでにサロモとしてかなり忙しく活動していた。共通の友人を通して、当時まだ学生だった竹村社長を紹介してもらった。つまり夏未さんはCoupe初期メンバーのひとりだ。

「今となってはこんなにメジャーになったけど、当時は発想があたらしすぎて、“ネットでサロモを探すってどういうこと?”って感じでした」


その後、夏未さんは雑誌『ar』の読者モデル「ar girl」としてさらに活躍の場を広げ、やがてアパレルの仕事に就き少しずつサロモの仕事を減らしていくわけだが、それでもCoupeから抜けることはなかった。なぜだろう? 誤解を恐れずに言えば、人気モデルになった今の夏未さんにとって、Coupeはべつに必要不可欠な存在ではない。Coupeに頼らずとも依頼はいくらでもあるのだから。

「やっぱり(竹村)めぐみさんのことが大好きだからですね。すこしでも貢献できればという気持ちがある。彼女の人柄に惹かれてるんです。気配りもこまやかで、なんていうか、目がいっぱいついてる感じ。仕事のスピードも速くてすごく信頼できる。学生の頃からずっとそうだけど、どんどんカッコ良い女性になってると思います」


夏未さんは、サロモからモデルになったひとつの成功例だ。モデルを目指す人たちにとって、彼女の通った道は参考になる。では夏未さん自身、じぶんがモデルになれたことについてどう分析しているのだろうか? 「まずは数をこなすこと」を大前提とした上で、次のように語ってくれた。

「大切なのは、美容師さんたちと信頼関係をつくることだと思います。ar girlになれたのも、ある美容師さんがわたしを推薦してくれたことがきっかけなんです。サロモを続けると、いつの間にか勘違いしてしまう瞬間ってあると思うんですね。でもそういうのは美容師さんにも読者にも伝わる気がする。かわいさ、作品としての完成度、それらは当然必要だけど、いちばん大切なのはそこじゃない。謙虚さを忘れないことだと思います。もちろん、有名店かどうかにかかわらず、です」

このスタンスは、夏未さんの生き方そのものを表している。じぶんが人気モデルであることのおごりは一切ない。誰が相手でも謙虚に誠実に、信頼関係を築こうとする。“そういうのは美容師さんにも読者にも伝わる”、つまり接する人すべてに伝わるから、夏未さんと仕事をすると気持ちがいい。気持ちがいいから、また頼みたくなる。そうしてどんどん結果が積み重なっていく。

人気モデルの秘密は、実はシンプルなことだった。シンプルなのがいちばんいい。もちろん、それを継続することは簡単ではないのだけれども。

ちなみに、モデル活動に本気でのめり込むきっかけになった元恋人は、現在の夏未さんの活躍を知っているのだろうか?

「だいたい知ってます。いまの彼の友だちなので(笑)。だから話はよく聞くし、向こうにもわたしの話は伝わってます。でも何も思ってないと思うし、わたしも気にしないです」

失恋の傷は完全に癒えた。ということは、かつて夏未さんを突き動かしていたものはもうない。それでもなお、モデルを続ける理由は何なのだろうか。「それはもちろん、好きだから」と夏未さんは即答する。
「久々に撮影すると、感覚が鈍っていることに気付くんですよね。つい同じ表情ばかりしちゃう。じぶんに足りないものに気付いた時、もっと頑張ろうと思える。今後はモデルを続けつつ、その経験をさらに活かして、アパレルでしっかり自分を見出していきたいなと思っています」

モデルの経験を活かして夢を実現させる。人気の秘密だけでなく、「モデル後」の生き方のヒントがここにあった。

hair : 須崎 亮太(SALT WATER)

執筆 : 山田宗太朗
写真・編集 : ミネシンゴ

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