INTERVIEW

顔の見えない「誰か」よりも、届ける相手が見える世界に行く--15年目の約束|美容室で「仕事」の話をしよう

INTERVIEW | 2018.06.05

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本屋B&B 木村綾子 × MARIS Hair Salon 小林正道

 文筆家、ブックセレクター、プロジェクト・プランナーとして下北沢『本屋B&B』をベースに「本」を軸に置いた様々なプロジェクトを手掛ける木村綾子さん。彼女とMARIS Hair Salonの小林正道さんは公私にわたり15年以上の付き合いを続けている。二人の出会いは19歳の時に木村さんがサロンモデルとして以前小林さんが働いていた青山・表参道にある美容室に来店したのが、きっかけ。小林さんは当時、アシスタントとしてそこで働いていたのだそうだ。15年という月日を共に過ごした二人が今、はじめて語るお互いの「仕事観」。そこには同じ時代を生き抜いた二人だからこそ重なり合い響き合う、今の時代を自分らしく生きるための言葉があった。

ーーお二人が知り合ったきっかけを教えてください。

木村綾子(以下、木村) コバ(小林)のことはアシスタント時代から知っていて。私、上京したのが19歳になる年だったんですけど。その年にサロンモデルになって。

小林 当時、僕はキム(木村)を担当していたスタイリストの専属アシスタントだったんです。

木村 コバがいた美容室はやっぱり、技術にすごくこだわりがあって。当時、いろんなサロンモデルをしてボロボロになっていた私の髪のことを、「ダメだよ、大事にしなきゃ」ってフォローしてくれたんです。そうすると私も人間だから、ああ、ここに来れば自分を取り戻せるなって感じられたんですよね。それに、いい意味でモデルを「モデルさん」扱いしないというか、本当にフレンドリーでしたね。

ーー当時の木村さんを、どのように小林さんは見ていましたか?

小林 ただのサロンモデルさんとはちょっと違う感じ……?(笑)。

木村 何それ!(笑)。

小林 当時から、雑誌の読者モデルやってて表紙に出たりしてたよね。いつの間にか連載も始めてたり。だから、ちょっと扱いが違う人みたいな感じでしたね。僕のお師匠さんにあたるスタイリストが、とにかくキムのことを気に入っていて。師匠が一番大切にしてるモデルさん、ってイメージだったから……女性としては見てない(笑)!

木村 あははははは(笑)。

小林 やっぱり、師匠のお客さんだったっていうのがあるから何百回と会ってるけど、未だに担当者として接するときは緊張するね。

木村 へぇ〜、そうなんだね。

ーー小林さんにスタイリングしていただくようになったのは、何年ぐらい前なんですか?

木村 5〜6年ぐらい前ですかね。20代後半の一時期、テレビのお仕事がメインだった頃があって、当時は専属になってくれたヘアメイクさんに髪の毛も切ってもらってたんですよ。だから、ご無沙汰になっていた時期が数年間あって。でも、ある時、コバと共通の友達がいて、その子に「キムも『MARIS』に行こうよ」って誘われて。

小林 「やべ、キムさん来た! キムさん来た!」って思いましたね(笑)。

木村 面白かったのが、普通に旧知の仲として再会した時は「変わらないねぇ、いつまでも」とか言ってくれたんですけど、コバに髪を触ってもらってるときに、「髪質が変わって来ちゃってさぁ」みたいなことを相談したら「それは老けたんだよ、髪の毛が!」とかってズバッと真実を言われて(笑)。やっぱ、時間経ってるなって思いましたね(笑)。

小林 いや、ふざけて言ったつもりはなかったんですよ。診断の結果です。でも、女性にそういうこと伝えるのは難しいですね……もうちょっと気を使わないと……(笑)。

木村 いや、むしろはっきり言ってくれたのが良かったんですよね。昔やってた髪型にしたいって思っても、「え、なんかしっくりこない、なんで…!?」っていう疑問に対する答えが分かったというか。だったら、今、年相応に美しくなるにはどうしたらいいかって方向に考え方をシフトする覚悟が持てたというか。

小林 最近のキムは無頓着なんですよ。前は月に2〜3回ぐらい来てたのに、最近は1〜2ヶ月に1回とか。しかも、だいたいノープランだし、連絡が来ても「髪がボーボーだから助けて〜」みたいな(笑)。自分のケアを最近はほったらかしてるんじゃないの? また、デリカシーのない言葉使っちゃったけど(笑)。

木村 ひどい(笑)。それの返答でいうと、やっぱり立ち位置が変わったっていうのがあるんじゃないかな。前は表に出る……誰かが私をメイクや髪型、服装で綺麗にしてくれるって世界にいたけど。今は逆に、人をよく見せる側の仕事をしていて。本屋さんのイベント一つ取っても「演者が気持ちよくできるように」とか「お客さんが楽しめる企画を」って考えてると、どうしても自分のことがおざなりになっちゃって……。っていうのは言い訳だ。どういう立場になっても、人と関わる上で自分が一番いいコンディションであるのは大事だよね。わー、余裕の無さを見抜かれてる!(笑)

ーー小林さんは、どうですか? この数年間でお仕事に対する向き合い方って変わりましたか?

小林 基本的なものは変わらないですね。やっぱりサービス業なので、技術はあって当然。それ以上にお客様への接し方を大事にしてます。どれだけお客様のニーズに気付けるか、というか。アシスタントの時は逆だったんですけどね。昔は美容師は技術を売ってるものだと思ってて「店販の売り上げがない」って言われても「別に品物売ってるわけじゃねぇし」って思ってたし。でも、今は店販を買っていただけるのも、信頼関係の結果だと思ってるので。

木村 いや、でも、本当にそうだよね。お客さんが言葉にしてうまく伝えられない微妙なニュアンスに、いかに気づけるかってすごく大事なんだよね。

小林 お客様には服装とか、身長とか、顔、肌とかも見るんですけど、なるべくライフスタイルを聞くようにはしてますね。付き合いが長くなると、色々わかってくるものもあるんですよ。今、流行ってるスタイルをやれば綺麗になるってものでもないから、似合う人と似合わない人がやっぱりいますからね。トータルバランスを見ようとはしてます。

木村 あー、それって本をセレクトする時の感覚に似てる! 私も、「オススメの本を選んでください」って相談されることが結構あって。普通は「普段はどういうジャンルの本を読んでるんですか?」みたいな角度からオススメするって思われがちなんだけど、私はそこにあんまり興味ない(笑)。それよりも「最近あった面白いことは?」とかプライベートなことを聞いていって、本を選ぶんです。その方が私は楽しいし、より新しい本との出会いを提供できるなって思うんですよ。

小林 いや、でも、本の方が提案難しくない? 何億冊ってある本の中から、その人にぴったりのものを選ばなきゃいけないじゃん? もっと、僕らの仕事はシンプルな気がするけど。髪型って数十種類しかないじゃん。

木村 そんなことないよ! 髪の毛、何本あると思ってんの?!

小林 そういう問題……?(笑)。プロセスの話だと思うんだよな。仕上がりのバリエーションはやっぱり少ないんだよ。でも、そこに至るまでのプロセスの違いでそれぞれの美容師の差異が出るんだと思う。髪を染めるにしても、髪質によって違う薬品を使えば回数も変わるし、人によってもそう。

木村 結局、やっぱりコバの仕事も私の仕事も大事にしてるところは同じな気がしますね。例えば私は今、飲食店の本棚を作る仕事をやってるんですけど。別に本当はなくてもいいものじゃないですか? 本屋にある本とカフェにポンって置いてある本は役割が違う。違うなりにどういう本を置いたら「あ……」って手に取ってもらえるか考えるんです。

小林 なるほどね。やっぱりライフスタイルを考えるのは大事な気がする。

木村 そうそう……コバに聞きたいことがあって。コバはずっとサロンワークをやってるじゃない? ヘアメイクとかで外に出て行くこととかはあんまりせずに。それはなんでなの? そっちの方が自分自身の主張ができるというか、新しいものを生み出せる場にはなるじゃん?

小林 答えにくいなぁ……(笑)。今は僕はサロンワークにしか興味がないんですよ。ここに来てから、割と思考がビジネスマン思考になっていて。将来的には経営者にシフトしたいって思いがあるので。前はずっとヘアメイクさんについていて、テレビや雑誌の現場に行ってたんですけど、全然やりたいと思わなかったんですよ。

木村 じゃあ、クリエイター志向はいまはそこまで強くないんだ?

小林 あ、でも、それは来てくださるお客様と作ってるから。別にメディアじゃなくても「こういうのをやりたい」っていう髪型をやらせてくれそうなお客様と相談して。外に発信してるとは言えないと思うから、やっぱり自己満足なのかもしれないけれど、楽しくやれてるからね。

木村 自分の話をすると、私はモデルやタレントとしてマスを相手に仕事をしていたわけですけど。あの頃といまと、実は、やってることは変わってないと思ってるんです。たとえば楽しかった企画のひとつに、「カバンの中身を見せて」っていうのがあって。そういう時にしれっと文庫本とかを紛れ込ませていくと、ファッション誌で好きな文学を紹介できることになるっていう。「ファッション好きな人が太宰と巡り会えるぞ……しめしめ」って(笑)。俳句に、“二物衝撃”っていう考え方があるんですが、思いがけず何かと何かがつながる、その役割として自分が存在しているということが楽しかったんですよ。

ーーでも、さっきおっしゃっていたようにメディアでそういう発信をしていく方向性から、本屋や本棚を実際に扱うリアルな場で発信を行うようになっていく。

木村 雑誌やテレビ、ラジオで連載やレギュラーなんかも持たせてもらうようになって。自分の言葉が世の中にどんどん出ていくわけですよね。すごく楽しいんだけど、ある時、20代の終わり頃ですかね。「私は、一体誰に向けてそれを発信してるんだろう?」って急に怖くなった時があって。もっと届ける相手が見える世界に行きたいって思うようになったんですよ。

小林 ふーん、そうなんだね。

木村 で、出会いがあって『B&B』を始めることになったんだよね。今は自分が薦める本を買う人の顔を見ることができるし、自分が企画したイベントに来るお客さんの顔も見れる。その自分がいいもの・好きなものを届けたいってモチベーションはモデルだった頃と変わってないけど、今の方が伝わってる実感がありますね。マスに興味がないわけじゃないんだけど、結局、現場でやっていればマスに届くわけですよね。

小林 来てくれるお客さんと繋がってるのが、僕にとっては一番のやりがいなんですよ。お客さんと話してたほうが僕は楽しめるなっていうだけ。

木村 私たちがやってることに気づいて、面白がって、フックアップしてくれる人は必ずいるしね。私はとりあえず、自分が居心地いい場所でやりたいことをやろうって気持ちになってます。

ーー本屋も美容室もそうですけど、人と触れ合う場の重要性っていうのはやっぱり近年、見直されてますよね。

木村 FacebookとかTwitterとかSNSがガーッと流行った時期にリアルな現場からみんな一斉に離れた時期がありましたからね。でも、確かに震災後に「やっぱり場が大事だよね」っていう方向に変わっていって。うちの店が2012年の7月から始まったので。時代の空気にも合致したし、自分自身でも「これからどうしようかな?」っていうのを考えることができたのかなって感じがするな。

小林 SNSに関していうと美容室の場合は、最初はそういうのはあんまり……って感じだった。今はもう、逆にやってなかったらついてけねぇよってなりましたね(笑)。

木村 美容室に行くって行為が、変わってきましたよね。昔はどこそこの誰々に切ってもらうみたいなことが一つのステータスみたいな時代があったけど。美容室もメディアに紹介されてなければ、もはやそれは美容室として認められてないみたいな。でも、今は、周りの評価じゃなくて、自分自身が「この髪型には価値がある」と思っていればいいみたいになってきた気がする。

小林 有名店に行ってる、雑誌で紹介されているっていうステータスがあったね。

木村 そこまでメディアに振り回されなくなってきたよね。今はもっとメディアってものが細分化されていて、どんどん個人の時代になってきてる。もちろん、Instgramで活躍してるインフルエンサーが行く美容室を「神」と崇める人もたくさんいるわけだけど。

小林 だからこその、サービスですよね。15年前だと、有名店ってだけでお客さんは来るし、売り上げもついたと思うんですけど。今は有名な美容室でもそう上手くはいっていない。僕自身、飛び込みで来てくれる人って少なくて。じゃあ、誰に支えられてるのかっていうと10年近く来てくれているお客様なんですよね。外に発信するのも確かに大事なんですけど、やっぱりそういう長く来てくれているお客様を一番大事にしたい。

ーー最後に、お互いに対するメッセージを伺いたいです。

小林 いつも思うのは、さっきの「キム、今、何やってんの?」じゃないけど。やっぱりマルチにジャンルレスに活躍してもらいたいなって思ってますね。なんだかんだ言っても、キムが教えてくれる情報に興味があるんですよ。自分が興味があることを次々持ってきてくれる人がキムだから。自分がやりたくてもできないことをやっていって欲しいなって思いますね。

木村 嬉しいな(笑)。確かに、肩書きにあんまり囚われたくないんですよね。「何やってるかわからないけど、頼んだら面白くしてくれそうな人」って思われてたほうが、新しい仕事と出会え続けるから。

小林 「また、そんなわけわかんないことやってんの?」って方が大体面白いから。大体、この取材だってキムがいなければなかったわけだからね(笑)。

木村 今日、こういう場がなかったら、20代の私を担当してくれていたコバのお師匠さんと、30代の私を切ってくれているコバの想いが変わらないってことも知ることができなかったから、嬉しかったですね。あの頃と、同じ居心地のを良さを私がコバに感じていることにも改めて気づけた。切ったら二度と戻らない身体の一部である髪の毛を預けるのって、実はすごいことで。その点、もう15年もコバは私の髪の毛を見てくれてるわけじゃないですか。なかなかそんなに長く自分のことを見てくれる人っていない。だから、これから変わっていっても大丈夫なんだろうなって安心感がありますね。


<木村綾子 プロフィール>
1980年7月19日生まれ。静岡県浜松市出身。10代から読者モデルとして、各種の雑誌・メディアで活躍。のちにタレントに転身し、ラジオ・テレビなどでもその活動の幅を広げる。現在は文筆家、ブックセレクター、プロジェクト・プランナーとして、下北沢の本屋『B&B』を中心に数々のプロジェクトを手掛けている。

<小林正道 プロフィール>
1978年2月27日生まれ。茨城県石岡市出身。都内数店舗を経て、㈱MARIS R&SPA MARIS Hair Salonのオープニングスタッフとして参加。現在はディレクターとしてマネジメントを学びながら、サロンワークを中心に講習やスタッフ教育を行い、時代に合うサロンを作る事に日々取り組んでいる。

写真:延原 ユウキ
文:小田部仁
編集:ミネシンゴ

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