The Bathtub / バスタブ

子どもの頃は着飾り方なんて知らなかった
―古海カナエ（MILBON AWARD大賞受賞者）

昔の写真を再現するために必死になる三兄弟。文句ばかり言う長男に弟たちは苛々したり、気まずくなったり。彼らはいたって真剣なのですが、見ているとなんだかおかしいのです。長男がどんなに偉そうなことを言っても「でもこの人パンツ一枚だし、兄弟とバスタブですし詰めになろうとしてるんだよな」と思うとつい笑いがこみあげてしまいます。

子どもの頃は自分を着飾る方法をよく知りませんでした。きっと私の幼馴染は、自分でも忘れているような私の失敗談を沢山知っているでしょう。そんな相手に虚勢を張ってもしょうがないから、情けないところも遠慮なくさらけ出せます。
ところが大人になると立派なスーツや理路整然とした言葉で面子を守るようになる。それはそれで大切なことだけど、そのままの自分を受け入れてくれる人との絆はなかなかに得難いものになりますね。他の人には到底見せられない、そんな姿で誰かといることは気恥ずかしいけれど、力を抜いて安心できる時間でもあります。

さっきまで修復不可能に思える喧嘩をしていたはずなのに、数分後には元通り、けらけらと楽しそうな兄弟が微笑ましく、ちょっとうらやましい。写真を見てきっとお母さんも笑みがこぼれたのではないでしょうか。