OTHER

もし町田康が美容師だったら

OTHER | 2017.06.15

SHARE

美容侍斬られて候。

いっぱしの美容師になってこます! そう思って美容師の世界に入ったはいいものの全然芽が出ない。こんなはずじゃなかった。こんなはずじゃなかったんだよやまちゃん。カリスマの美容師になって表参道あたりに自分の店を構えて生活をするはずが、気がつけば赤羽の寂れた住宅街にある散髪屋で、住み込みで働いている。そして気がつけば10年経っていたのである。

散髪屋の休みは月曜日である。平日昼間に駅前の喫茶店でマンガでも読もうかとふらふら歩いていると必ず警察の職務質問に会うではないか。そろそろ顔を覚えてくれたまえよ、警察ちゃん。僕はそんなに怪しくないじゃないの。ポケットに観賞用のこけしを入れてるだけじゃない。何が怪しいというの。あぱぱ。気分を害したので、家に帰って寝ることにした。俺は僕は小生は。

今日は仕事の日である。私についている常連のお客さんが来店した。一瞬で美容師であるところの私の、魂?ソウル?が燃えたぎり、さあ、やるぞとハサミを持つ手が震えているではないか。どうした、我がソウル。お客さんのオーダーは、刈り上げにしてほしいとのことだった。刈り上げってどうすんの? って誰に聞いてんの? もうそんなことも言ってられない、私は髪の毛にハサミを入れた。バサバサを切っていく。なんだろう、この取り返しのつかないことをしている感じ感。でも私はいく。いつかカリスマの美容師となって表参道にお店を構えるまでは。無残にも切られた髪の毛がパサッパサッっと音をたてて落ちた。私は、それが床に落ちていくのを眺めながら、職安までの道のりを思い出していた。

文:神田桂一
イラスト:さのゆりこ

TAGS

Find Your Beauty MAGAZINEの最新記事をお届けします

RECOMMENDED POSTS

FOLLOW US