
ハイレベルな名古屋エリアでグランプリに輝いたR’oti(ロティ)の河野哲也さん。静岡県磐田市から参加し、大都市にお店を構えていなくても“できる”ということを実証して見せた。それは常にリアリティブという発想でサロンワークをしているからだと話す。今回のエリア大会での作品の狙いやアイディアを伺うとともに、グランプリファイナルへの意気込みなど、河野さんらしいていねいな言葉で語っていただいた。
Ⅰ.初出場したときの経緯
--DAへの参加は今回で何回目になりますか?
2回目になります。
--最初に参加しようと思ったきっかけは覚えていますか?
僕は静岡の磐田市でお店をやっているということもあって、以前から県外のコンテストに挑戦したいと思っていました。そんなときにDAを観に行き、会場の空気感が良かったので出ることを決めました。
--空気感はどんな感じだったのでしょうか?
大きいスペースにギャラリーが程よく入っていて、照明や映像を駆使した会場作りがかっこいいと思いました。競技している様子も見やすかったですし、出場者同士の距離感も広くてやりやすいように思いました。
--普段、コンテストに出ていないところで挑戦してみたいなっていうのは、河野さんの中でどのような狙いがあったんですか?
お店の代表として小さい空間の中で毎日カットしているわけですけど、違うエリアだったらどのくらいのレベルなのかなと。物差しじゃないですけど、人と比べて初めて自分の身の丈が分かることもあるじゃないですか。

--資料によると初出場のときにデザイナー賞を獲得しています。そのときのことを覚えていますか?
右も左も分からない状態でやったというのが正直なところでした。賞はもらえましたけど、自分の中ではモヤモヤしている感じで、写真も結局、Aパネルはまあまあ良かったとして、BパネルのクリエイティブのほうはAパネルと連動した写真ではなく、ただいい写真を出しただけ。CモデルがAとBの真ん中にちゃんと落とし込んであるのかといったら、そんなこともありませんでした。結局、気持ちの部分で、思い入れが弱かったんだと思います。思わず審査員の方にメールしたくらいです。なんで僕なんですかって。
Ⅱ.エリア大会までの準備

--今回の名古屋エリア大会はそのときのモヤモヤした経験を活かして参加したと。
はい。今回は徹底的に準備をして、完全に優勝を狙っていきました。レベルの高い美容師さんたちの集まりなので、優勝を狙ってダメでも審査員賞を獲ることができればいいかなという感じでした。
--具体的にどのような準備をしたんですか?
ヘアの見せたいところやモデルさんとの距離感など、そういうのが大切だと思ったので、プロのカメラマンに頼らず自分で撮影することにしました。なのでカメラの練習をしましたね。A、B、Cの3つのストーリー性も意識しました。AとBはあえて同じ光の条件で撮影しているんですけど、ヘアの動かし方でリアルかクリエイティブの違いを見せることができれば1番理想なんじゃないかと。
--河野さんは、カメラ以外もご自身ですべてやっていくタイプですか。それとも、まわりに協力してもらうタイプですか?
極力はまわりに協力してもらうほうを選びます。1人でやるほうが正直ラクなんですけど、スタッフを巻き込むことで、こういう表現の仕方があるんだと気づくこともありますから。

--DAはリアリティブというテーマでやっているんですけど、それについてはどうお考えですか?
僕としてはリアリティブというのは割と日常的なんです。Bパネルのようなクリエイティブでシャープなスタイルは割と苦手かもしれません。そもそも僕のサロンワークはどこかしらに足跡を残すようなところがあるので、よくよく振り返ってみるとずっとリアリティブだったなという気がします。
--日常的にリアリティブな発想でお客さまと向き合っている感じなんですね。
日々そんな感じです。
Ⅲ.作品へのこだわり

--改めて、エリアグランプリの作品を解説してほしいのですが。まずAからお願いします。
Aを作っている時点で当日のことを意識しながらやっていました。カールを出すスタイルをCに持ってくるつもりだったので、カールのにおいを少し感じさせるようなデザインにしました。もちろん、カールの質感や色は変えるつもりでいましたけど。ただ、写真にしたときに光の陰影でカールが分からなくなる可能性があったので、それを審査員がどうジャッジするのか。ステキだと思ってくれるのか、よく分からないと感じてしまうのか、どちらに転んでもおかしくないものだったと思います。そう考えると、かなり攻めたなと思いますね。
--Bはどうですか?
Aと同じ条件の自然光で撮っているので、クリエイティブとしては弱いと見られやすいリスクがあったかと思います。しかし、Aに比べてどれだけシャープなものかという点においては、分かりやすいのではないかと思いました。1番の違いは色の強さやモデルのテイスト。タトゥーが入っていたり、黒いネイルだったり、タバコだったり。自然光をより強く見せるというか、そういう選び方をしました。
--Cのリアリティブはいかがですか?
やっぱりパーマですかね。カールアイロンじゃなくて、本当にパーマをかけることにこだわりたかったので。レングスがロングの場合ならアイロンで巻くこともあるでしょうが、ショートやボブは巻かないと思うんです。さっと乾かしてさらっと決めたいという。だからパーマが必要であって、日常を踏まえて作りました。
Ⅳ.ファイナルまでの取り組み
--河野さん自身のデザインの特徴、こういうのが自分としては好きだなというのはありますか?
僕は男性なので、ラインやフォルムが男性的になりすぎないように意識しています。シャープになりすぎないということですかね。その辺は女性のスタイリストさんはすごくバランスがいい。参考にするところはたくさんあります。

--特徴を出そうとすると、より男性的な要素を際立たせる発想があるだろうと思ったんですが、逆なんですね。
女性のほうが天才的というか、男性は理論できちっとやるので。理論はラクですよ。その法則でやっていけば自然と答えが見えてくるので。その人の生活やオーラなど、見えないものに対して当てはめていくのが女性はすごく長けているので、女性が作るスタイルは徹底的に見るようにしています。

--感覚を大事にするということでしょうか?
年を重ねれば重ねるほど、美しく作ることができるようになるんですけど、そこを壊していかないといけなくて。だけど壊れなくなっていくんですよ。脳も手も。そこをあえて壊す。僕のカットってこうじゃないとダメなんだよねってなったとき、自分は終わりだと思っています。それって世の中が求めていることよりも自分のキャリアを優先しているんですよね。女性はそういうことがなく、柔軟に対応していると思います。
--名古屋エリア・グランプリを獲ったときの気持ちはどうでしたか?
すごくうれしかったですけど、それで終わりじゃないコンテストなので。ファイナルへ行けなかった人のことを考えると責任は重いなと感じました。ただ、責任の重さを楽しめる人がグランプリを獲れる人なんだと審査員の方が言っておられて、名古屋エリアの代表として恥じない作品をつくりたいと今は思っています。
--残りの期間でこういう取り組みをやろうと思っていることはありますか?
日常をごっそり切り取られるコンテストだと思っているので、普段いかにお客さまと向き合っているかが問われると思います。毎日が本番。お客さまが言ってくれたオーダーの中に、どれだけ自分の色を限られた時間の中でつけて満足させられるか。それはある意味コンテストよりも難しいことで、それを毎日1人ずつでもやることができれば、ものすごいトレーニングになりますよね。
--まさにミルボンが目指したいリアリティブの在り方です。最後にDA of the yearへの意気込みを聞かせてください。
特別な時間だからこそ気張らない。自分の持っている力以上のものは出ないと思っているので、大事なのはその日、自分が持っている力をきちんと出せるか。自分の一生懸命やっているところを見せることができれば、満足のいく大会になるのではないかと思っています。