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寄付されて、ウィッグになって、使われるまで。ヘアドネーションを「体験」する親子向けイベント開催

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「正しい情報を知って、実際の体験で感じてほしい」

ここ数年で注目を集めるようになったヘアドネーション。集まってくるヘアドネーション総数の3割近くを占めるのは10代以下の子どもたちだといいます。夏休みの自由研究のテーマにする子も多いということで、(株)ミルボンの3拠点(東京、大阪、福岡)にて「ヘアドネーション」に触れる親子イベントが開催されました。
※この記事は2018年7月22日に大阪で開催されたイベントレポートです。

主催するのは、寄付による髪で作ったメディカルウィッグを、18歳以下の子供たちに無償提供しているNPO法人Japan Hair Donation & Charity(JHD&C、ジャーダック)。イベントの趣旨は、どんなふうにドネーションを募って、どんなふうにウィッグが作られて、どんなふうに提供されているかを伝えること。興味津々でお話をきく子どもたちを前に、冒頭の挨拶で代表の渡辺貴一さんは「1.正しい情報を身近にしてほしい 2.実際の体験を通じて何かを感じとってほしい」と話します。「答えがあるわけではなく、大事なのはなにを感じるか」という渡辺さんの言葉を聞いて、子どもたちはいったい何を感じ、何を考えるのでしょうか。

ウィッグとの出会いがくれたものとは?

まずはウィッグユーザーの体験談。登壇された吉田薫さんは、小学生時代に円形脱毛症を発症、徐々に脱毛の範囲が広がり、中学に入ったころには、まつ毛や眉も抜けて、やがて全身の体毛がすべて抜けていったそうです。そして、高校生のころから後天性の病気でほとんどの髪がなくなり、ウィッグを使うようになりました。ウィッグを付けるまでは、太いヘアバンドでなんとか隠していたものの、頭が常に締め付けられていたせいで、当時はいつもしかめ面だったとか。毎日頭が痛く考え方もマイナスになってしまっていた吉田さん。その様子を心配したお母さまの「つけてみたら?」という助言が、ウィッグをするようになったきっかけとなりました。そんなウィッグとの付き合いの変遷を話しながら、ウィッグをつけた人がもしも自分の近くにいたら、「ひと声かけてくれる大切さ」で救われる、と語りました。

その場でばっさり! 緊張のドネーションカット

次に行われたのは、ヘアドネーションカットのデモンストレーション。今回モデル役を務める2人を、その場で美容師のおふたりがカットしていきます。髪に水分がついているとカビや雑菌が繁殖してしまうため、ドネーションでは何より「濡らさないこと」が重要とされています。通常ではまず髪を濡らしてからカットを始めるところを、乾いた状態の髪の毛を小さな束に分けてゴムで結んだ結び目の1cmくらい上からカットしていきます。

舞台のうえで、緊張の面持ちの2人。切られたあとの自分の髪の毛をじっと眺めていたモデルのひとり、小学生のしおりさん。美容師さんだけでなく、家族も参加してモデルの2人の髪にハサミを入れていきます。切られてゆくごとに、ふたりの表情も、笑顔へとほどけていきました。

ウィッグ制作過程、髪の毛の仕分け作業にトライ

最初のワークショップでは、髪の毛の仕分け作業を体験。送られてきた髪の毛を、長さ別の箱にふりわけていきます。実はこの作業、とても時間がかかるそう。今ではヘアドネーションで届く髪の毛の量に対し、作業が追い付いていない状況だといいます。ジャーダックには年間何万通となるドネーション用の髪の毛が送られてきています。

机をまわりながら、渡辺さんは子どもたちにヘアドネーションにまつわるさまざまなことを教えていました。たとえば、31cmの髪だとそこからウイッグとしてできるのは15cmほどのもの。また、よかれと思って髪を丁寧に紙やサランラップで包んでからゴムで縛って送られてきた毛束は、作業の段階でひとつずつ解いて束にしなおさなくてはいけません。通常の3倍くらい作業時間がかかってしまうんだとか。誰かの役に立ちたいという気持ちは、みんな同じ。けれど正しい情報を知っているかどうかで貢献度は大きく変わってくる。これこそが渡辺さんがイベントの冒頭で語った「正しい情報に触れる」ことの意味。作業をしながら、渡辺さんは常に「正しい情報」を伝えていきます。

「すがすがしい気持ち」笑顔でさわやかな姿をお披露目先ほどカットデモンストレーションを受けたモデルの2人が再び登場。きれいにカットされて整えられたヘアスタイルを披露してくれた2人に、会場からは歓声があがりました。ドネーションカットをするのは2回目だというひろこさんは、「このために伸ばしてきたので、すがすがしい気持ち」と晴れやかな笑顔。

小学生のしおりさんは、お兄ちゃんの病気をきっかけにお母さんとドネーションを始めたそう。家族みんなで参加していたしおりちゃんファミリーにとって、ヘアドネーションは、家族をつなぐ絆にも一役かっているようです。

「実際につけたら?」ウィッグの装着感を体験

ワークショップの最後にはウィッグ試着体験。アデランスのスタッフの方々がサポートにつき、子どもたちは黒、茶、赤や金など色とりどりのウィッグの中から自分の気になるものをセレクト。「暑い!」「苦しい~」など素直に感じたことを思い思いに口にしながら、スマートフォンやカメラでウィッグ姿を撮影したり。ちょっとした変身気分をお父さんお母さんと一緒に楽しんでいました。最後は記念撮影でなごやかに終了。自分が寄付したものが、果たしてどう届けられてどうウィッグという形になり、どう使われているのか。その「ヘアドネーション」という活動が叶えているものを、最初から最後までひととおり感じることができたイベント内容でした。

知ること、伝えること。ヘアドネーションが「特別」でなくなる未来まで

イベント中、終始、真剣にメモを取ったり、写真や動画を撮ったり、最初から最後まで、親に強要されるのではなく自分から知ろう、学ぼうとする子どもたちの姿勢。その姿は小さいながらもとてもたくましく、人として美しく見えました。
最後に「髪が短い人でも、できることってありますか?」という質問に、「伝えることですよ!」と快活に即答してくれた渡辺さん。まずは、伝えて知ってもらうこと。もっともっと多くの人に、「ヘアドネーション」が立派なことでなく「ふつう」の文化になる日まで。それは渡辺さんの笑顔と、イベントで見た子どもたちの笑顔の向こう側にある、そう遠くない未来かもしれません。

Japan Hair Donation & Charity(JHD&C、通称ジャーダック)
一般の方からの「ヘアドネーション(髪の寄付)」と募金等によりフルオーダーのメディカル・ウィッグ『Onewig』を製作し、18歳以下の子どもたちに完全無償で提供しているNPO法人。脱毛症や乏毛症、小児ガンなどの治療や外傷等、何らかの事情で頭髪に悩みを抱える子どもたちに、ウィッグを通して子どもたちの状況が少しでも良くなるきっかけを提供することを信念として活動を続けている。
https://www.jhdac.org/

写真:ミネシンゴ
取材・執筆:吉澤志保

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