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別所哲也×佐藤龍二 MILBON AWARD対談:「美容とは何か?」映画の視点で美容を見る

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2020年12月15日から、「美容室(美容師)」をテーマにした短編小説公募プロジェクト「MILBON AWARD」が開催中。本プロジェクトは、米国アカデミー賞公認の国際短編映画祭である「ショートショートフィルムフェスティバル & アジア(SSFF & ASIA)」が運営する短編小説公募ブロジェクト「ブックショート」とミルボンとの共同開催。大賞作品はショートフィルム化し、ミルボン公式ホームページやSNS、YouTubeなどで公開する予定。

SSFF & ASIAは、俳優の別所哲也が1999年に立ち上げた映画祭で、新しいジャンルとして「ショートフィルム」を日本に紹介するために誕生した。以来毎年開催され、アジア最大級の映画祭へ成長している。一方で、企業のメッセージをストーリーに乗せて伝える「ブランデッドムービー」にも積極的に着手。数十秒のテレビCM等とは一線を画す新しい映像表現として注目を集めている。

本記事では、「MILBON AWARD」の開催を記念して、別所哲也とミルボン代表取締役社長である佐藤龍二の対談を実施。企画担当者である広報の星萌子をコーディネーターとして、ミルボンがこのような企画を実施するに至った経緯や意図について語ってもらった。

映画にすることで、時代も大切な思いも真空パックできる

:今回の「MILBON AWARD」は、別所さんと佐藤のあいだのご縁ではじまった話なんですよね。


佐藤:ミルボンの企業理念には「文化に貢献する」という言葉があります。文化とは人々の生活の中から生まれてくるものであり、地域によってさまざま異なるもの。別所さんにお話を聞かせてもらうなかで、映画と美容とでは視点が重なるところも違うところもあるけれど、人の豊かさや幸せに対するアプローチ、つまり文化という点ではひとつに括られると感じたんですよね。それが純粋に面白いと思ったんです。


:そもそも、おふたりはどのように知り合ったのですか?


別所:きっかけは取材ですね。ブランディングやマーケティングについてどうお考えなのか、僕と佐藤社長とで対談する機会があったんです。その時に「ショートフィルムの映画祭をやっていて......」とご紹介させていただいたら「面白い、もっと詳しく聞かせてほしい」とおっしゃってくれて。


佐藤:その時に非常に感銘を受けて、ぜひ今度食事でもしましょうと提案させていただいたんです。そうして一緒に食事をするなかで、別所さんのアメリカでの経験などをお聞き
して、これは面白いなと。視点の違うところで美容をフォーカスするのもありだなと思ったわけです。それに、別所さんはもともと美容業界と縁の深い方でもあるんですよね。


別所:母が美容師なんです。小さい頃から、学校が終わると美容院に帰って放課後を過ごしていました。そこにある物語や人々の行き交いを見ていたので、僕にとっては身近な世界だったんです。もちろんうちの美容院にも業務用のシャンプーなどがあり、母親が使っていたものですから、個人的にとても懐かしく、大切な事業、業界だったんですね。


:別所さんにとって美容室(美容師)というテーマは、イメージしやすく、ワクワクして見られるものなんですね。

別所:そうですね。時代によって移り変わりがあって、僕が子どもの頃に見ていた景色と今とでは多少違うかもしれません。でもやっぱり、初詣や成人の日など、それぞれの節目で、あるいは日常でも、着飾ったりときめいたりしている人たちを見てきたし、それをお手伝いする母の姿を見ていましたから。僕にとってはとても大切なものです。

だいたい、髪を切らない人はいないわけですからね。でもそこには時代のトレンドがある。あるいは決意があって自分の髪を切ったり染めたりする。そういうことって物語がたくさんあるじゃないですか。ぜひ短編映画にしたら、時代も、その人の大切な思いも真空パックして届けられると思うし、わかちあえるんじゃないかなと思います。

美容も映画も、人間にとって必要な「豊かさ」である

:そうしたきっかけでスタートした今回の「MILBON AWARD」。企業がムービーや小説をつくって発信することはあると思うのですが、一般のお客さまから募集するというのが面白いですよね。


別所:プロダクトやサービスを使うお客さまがいればそこに一人ひとりの物語があるわけで、その物語が企業にとって大変価値があるんです。次のサービスやプロダクトへのヒントや課題解決になるかもしれないし、21世紀のキーワードでもある「共感」に繋がるかもしれない。他の商品や企業と並べた時、自分にとっていちばん近い存在はどれか?ということが消費行動との親和性が高いわけですし。


:ミルボンはサロン向けの商品を取り扱っているBtoBtoCの企業です。一方で、ブックショートはtoC向けのエンターテインメント。組み合わせとして珍しいのではないでしょうか?


佐藤:今までなら珍しいことだったかもしれないけれど、これからの時代はそれが当たり前になっていくと思います。いかに顧客や生活者に対して接点を持つか。我々は直接的に言えばBtoBの企業だけれど、その先に顧客というC(customer)がいる。そのCにどれだけ我々の思いを伝えられるか。このプロジェクトの内容はまだ社内の全員が知っているわけではないけど、関係者はみんな「面白い」と共感してくれたよね。


:純粋に面白い取り組みだと思いました。これまでのミルボンは、美容師さんの声を直接聞くことはあっても、お客さまの声を直接拾うことはなかなかできていませんでした。
「MILBON AWARD」はそこにアプローチすることができます。別所さんがおっしゃったように、今回募集する物語はわたしたちの財産になりますし、それをわたしたちが発信することで、美容師さんにとっても「お客さんってこんなこと考えてるんだ」と新しい一面を発見するきっかけになると思うんです。

たしかに美容や映画は、なくても生きていけるかもしれません。でも、これらがあることで心が豊かになり、人生が豊かになりますよね。新型コロナウイルスの感染拡大と巣ごもり期間によって、実はこうしたものが生活に必須であると実感した人も多いと思うんです。かなりの人が最初の緊急事態宣言中に映画やドラマを楽しんだし、緊急事態宣言が明けてからはまず美容院に行きましたよね。

別所:ただ食べて寝るだけではなくて、人間にはそういった豊かさが大事なんだと改めて気付かされましたよね。

生活者に寄り添うところに物語がある

:今回募集する物語のテーマは「美容室(美容師)」ですが、このテーマに込められた思いを教えてください。


佐藤:それは、美容師さんこそが一人ひとりの生活者とより近いところにいるからです。僕は、美容でいちばん大切なのは「寄り添う」ことだと思っているんです。我々は美容師さんに寄り添う、美容師さんはお客様・生活者と寄り添う、これによってビジネスの土台が成り立っている。寄り添うからこそ、その人のことがわかる。美容とはただ単に外見をきれいにするだけではなく、内面的な部分まで、いわばケアに繋がるようなことをするわけです。

ミルボンでは「ライフタイムビューティー」というテーマを持っています。お客さまの人生をトータルで捉え、末長く美容師さんと付き合い、一生涯、美しく輝ける生き方を応援する。もちろん髪や肌の状態も年齢とともに変わっていくけれど、その人の内面も人生とともに変わっていく。だからこそ、我々のお客さまである美容室・美容師さんにフォーカスしたら、非常に面白いエピソードや物語が生まれて、ひとつの財産になるんじゃないかと思ったわけです。

別所:ある意味、美容師さんは身近なセラピストですよね。俳優にもヘアメイクがありますが、俳優にとってヘアメイクさんとは、役をともにつくっていく大切な存在であると同時に、自分の身体を触るいちばん近い他人。信頼関係がないと成り立たないですよね。だから美容師さんとお客さんのあいだにも心の交流があると思うし、セラピスト的な話をしたくもなる。うちの母親なんか、結婚相談所みたいになっていました。「うちの娘に誰かいない?」と言われて「じゃあ探しましょうか」なんて言ったりして。

佐藤:美容室というのは、その街に根付いたコミュニティの場所になっているんです。豊かさや幸せよりももっと手前の、人が生きる上での土台のようなところがある。そこに携わる美容師さんが一人ひとりの生活者とどう寄り添って、どんな物語ができているのか、そうしたことをクローズアップすることで新たな発見や可能性が生まれると、楽しいだろうなと思うんです。これが25分尺のショートムービーだからまたいいんですよね。2時間3時間になるとなかなか見るのが大変、かといって何秒かのコマーシャルでは伝わらない。


:美容室って、行くまでもすごく楽しみだし、帰ってからも楽しいじゃないですか。髪の毛がかわいくなるだけで気分があがったり、おすすめしてもらったシャンプーを使っている時に美容師さんのことを思い出してテンションが上がったりする。美容室にいる時だけではなく、そこへ行く前や後も気持ちが高まる。これも今回のテーマのひとつかなと思います。


佐藤:美容室に入ってくる時と出て行く時とでは、顔立ちや歩き方が違うと思うんです。にこやかで凛とした感じで出て行くでしょう? ヘアスタイルだけでなく、心が変わるんですね。これが大事です。だから文化なんですね。それが幸せや豊かさであり、そういったことの積み重ねが人生をつくっていくんですね。

美容室とはどんな存在か?

:おふたりのお話を聞いていて、今回募集する作品がショートフィルム化されるのがより楽しみになってきました。


佐藤:一人ひとりの生活者の物語が出てくるといいなと思っています。それは社員の誇りになりますから。自分たちの仕事がこう繋がっているんだ、とわかることによって誇りが生まれてくる。また、美容師さんたちが改めて美容の価値を感じ、自分たちの役割や使命を感じられる物語がたくさん集まると素敵だなと思っています。

つまり、一言で僕なりに表すと「誇り」ですね。やはり、仕事というのは、自分の気持ちや身体を懸けてやるわけですから。その対価は金銭でもあるけれど、人は金銭だけでは続かない。社会の役に立っている実感、自分がいることの存在意義。これが誇りになり、仕事のモチベーションになる。


別所:僕はもう、素晴らしい作品ができると確信しています。映像になる前の活字の物語も楽しんでいただきたいし、映像になったら、映画を通した心の旅に繋がってほしい。映画を見たあと、自分がお世話になっている美容師さんの顔をもうちょっとしっかり見たくなるような、そんな気付きに繋がるといいなと思いますね。


佐藤:美容室とはどんな存在なのか、考えるきっかけになるといいですよね。僕は、美容室とは単に技術を受けるだけの場所ではなく、美しく自分らしくなれる場所や街々の美と心のコミュニティであり、ビューティプラットホームだと思っています。それによって生活者はよりイキイキと、伸び伸びと生きられるようになる。そう感じてもらえる一助となれば、今回の試みは大成功だと言えるのではないでしょうか。とても楽しみです。

MILBON AWARD 募集要項

■募集テーマ:「美容室(美容師)」
■文字数:5,000文字以内
■募集期間:
第1期 2020年12月15日(火)~2021年1月15日(金)         
第2期 2021年 1月16日(土)~2月15日(月)         
第3期 2021年 2月16日(火)~3月15日(月)
■賞:
大賞 賞金30万円+ショートフィルム化(全優秀作品のなかから1作品選定)
優秀賞 賞金10万円×2作品(全優秀作品のなかから2作品選定)
ミルボン賞 ヘアケアグッズ(各期の優秀作品の中から第1期・第2期は5作品、第3期は10作を選定        
*優秀作品は各期の締め切り約1か月後にブックショートWEBサイトにて発表、全文を掲載
■応募規定:https://bookshorts.jp/milbon_award_rule

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