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いま、このとき、1秒1秒。

REPORT | 2019.09.19

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いま、このとき、1秒1秒。

7月ももう9日で日も長くなってきているはずだけど、さっきまで明るかった窓の外ももう暗いかな。
窓のない控え室に入ってからどれくらい経つのだろう。
ついさっきのような、もう何日も前のような不思議な感覚。
いまは何時なんだろう。
控え室でみんなが視線を落とし、スマートホンを光らせる。
19時30分、それが発表の時間。
ついでにかばんからペットボトルを取り出そうして、ふと思う。

妹、無事ヒカリエに着いたかな。

***
いま、このとき、1秒1秒。

梅雨まっさかりの曇天でも透明なガラスの壁、それだけできれい。
見とれてみていると、クローク係から声をかけられた。大きなトートを慌てて渡す。受付までのフロア。雰囲気も独特。照明の落ちた入口のなかを照らしているブルーライト。音楽もかっこいい。
足を一歩踏み入れる。

ご来場、ありがとうございます、という声。
広い空間の最奥には数段の壇が設置されていて、巨大なスクリーンがふたつある。
そこにいるすべてが浮き足立っている。ヒカリエホール全体がそわそわしている。ブルーに彩られた空間でいろいろなひとが入れ替わり立ち替わりその場を離れまた戻り、知人を見つけ手を振り、通り抜け、入口のパネルを再度見に戻り、でもすぐ戻ってくる。
そう、上気した顔がたくさんある。通り過ぎる楽しそうなひとたち。やっぱり髪はおもしろかったりかっこよかったりかわいかったり。メイクも個性的、いいな。

こんなにたくさんにひとたちが見にくるコンテスト。ファイナリストのアシスタントをすることになった、と姉はさもどうでもいいことのように電話で告げた。電話をしてくること自体がめったにないのだから、どんなに平静を装っていても気持ちはわかった。緊張していることも。電話口で昂奮したのは同じだった。びっくりした。大きなコンテスト。話してくれたときに言うべきだったのだけれど、いま思う。

こんな場所に出るなんて、おねえちゃん、すごい。


***
いま、このとき、1秒1秒。

時刻は14時20分。AとBのパネル審査はたぶんもう始まっている。
大きな会議室のようなところ、鋭い目が素速く動き、資料をめくる音。姿を見るにも緊張する錚々たる審査員の顔並び。目を落としペンをとり数字を手元に書き込んで、ときどき眉を寄せたり口角を上げたりしているのだろう。
そんなことが同じ建物のなか、進行中だと思うと、いやな汗が出る。いや、あっさり結論が出て、全員ペットボトルのお茶なんかを飲みながら雑談をしているかもしれない。わからない。なにも。

ただわかっていること。それはもう少し経てばすべてが始まりそして終わるということ。優勝者がわかるということ。
では、と案内をする係のひとが誘導するために促した。
列が動く。
わたしも踏み出す。

***
大きな拍手でお迎えください、というはられた声にはっとして目を上げる。割れんばかりの拍手、歓声も上がった。口笛も鳴った。ひとの流れが変わる。
黒く囲われたブースのなかに気がつけば各サロンのファイナリスト、モデル、アシスタントの準備が調っている。さっきまで誰もいなかった。どのファイナリストも一秒でも早く正確な位置に付けるように入念に準備をして、頭は冴えわたっているのだろう。集中から放たれる緊迫感が会場を包む。

司会のひとがさらに会場を盛り上げていく。
姉がいる方角を見る。狭い通路でギャラリーが立ち止まってじっと眺めていたりその近くで写真を撮ったりするひとで寿司詰め状態、なかなか遠くは見られない。姉はたぶんここから遠くのあのブースにいる。
「それでは、みなさまよろしくお願いいたします!」
という司会の声がより弾ける。VJが鮮やかに操るスクリーンにはカウントダウンの数字が浮かんでいる。
高揚感と重低音がマッチする。どきどきする。
遠巻きに姉がいま、ちらっと見えた。がんばってモデルさんに微笑みかけている姿。

***
だらっと放心。こういうのを開放感と呼ぶのだと思う、たぶん。
暗がりのなか華やかに彩られたホールのなか、オーナーはファイナリストとしていろいろなひとに囲まれ、モデルさんもクールな表情を破顔させて楽しんでいるよう。
35分間、意外にリラックスしていた。いや、昂奮していたのかもしれない。もしかしたらオーナーの不安と焦燥が指先の動きから伝わったから、落ち着かなければいけないと身体で感じたのかもしれない。わたしまであたふたしたらモデルさんまで動揺してしまう。タイミングを外したら元も子もない出来上がりになる可能性だって、ある。オーナーから手渡されたものを微笑みながらワゴンに戻して次の準備を、そしてその先の仕込みをする。なるべくがたがたしないように、しかし必ず先もって。審査員のかたが通ったときも、なにより目先のことでいっぱいで、緊張する余裕すらなかった。いつの間にか「お疲れさまでした!」という声がスピーカーから聞こえ大きな拍手が会場にこだましていた。

ああ、やることはやったのだ。
そのときわたしはどきどきしながら、意外にも壇上のオーナーの姿や顔色を見て笑っていそう。スポットライトで照らされてほかのファイナリストと一緒に並んだオーナーはモデルの子に声を小さくかけて少しでも落ちつかない気持ちをまぎらわせてみたり、会場に目をやってやっぱり強張ったりするんだろう。その小心のびびりっぷり、ちょっともう、直してほしい。アシスタントであってもそわそわするからさ。

***
いま、このとき、1秒1秒。

お腹はすいていたので中央にきれいに並べられたサンドウィッチやサーモンクラッカーをついちらちら見てしまう。そこにいる多くのひとのおなかがなるなか、司会でますます会場は熱を帯びる。
烏龍茶を手に取ると手が冷える。でも会場にビシビシ伝わる爆音はシャワーを浴び終わったときのように気持ちがいいし、スクリーンの映像も吸い込まれそうで、夢心地。ひといきにグラスは空になる。

そんなふうに姉は、妹はそれぞれ喉をそれぞれ潤す。
姉は舞台にいちばん近いスタンディングテーブル、妹は並べられたイスだ。
まだふたりは顔をあわせていない。彼女たちはそんなことを忘れて、姉も、妹も、眩い光の乱反射に目を細める。ちかちかする。
はじめてのアワード、サロンに入ったときはこんなところに来るなんて思っていなかったのに。
はじめてのパーティー、来年に出る成人式が華やぐ最初の場所だと思っていたのに。
ありがとう、オーナー。ありがとう、おねえちゃん。
ふたりの口がそれぞれに軽く動く。

舞台左隅にやがてスポットライトが当たる。司会が浮かび上がる。
表彰式を前に、いま緊張感と高揚感がびしびし肌を刺す。

「グランプリは!」



間がある。



「Daisy、矢冨カレンさん!」



どっと歓声が起きる。

純粋にまっすぐな瞳が印象的だった。
姉には申し訳ないけれど、納得の表情でひとり肯いて壇上の舞い散る黄金の紙吹雪に胸が震える。彼女は笑顔になっている。

「Daisy、矢冨カレンさん!」
どっと歓声が起きる。
そうか、と思う。それからスクリーンを見て、しっかりもう一度捉える。
そうか、審査員の目はたしかだ。
舞台前だからよく顔が見えた。司会のひとが言い終わると、グランプリの矢冨さんは感極まりながらもしっかりした口調でお礼を述べ、赤い髪の、個性的なモデルさんと抱き合う。
壇上のオーナーはなぜか少しはにかんだ顔で、闘い終わった手をゆっくりと叩いて、それから顔の前まで手のひらをあげて盛んに叩いた。
そして目が合う。はにかんだ顔をまた見せるのではないかと思ったが、真面目な笑みを一瞬浮かべて、すぐにまた優勝者に視線を戻す。

姉は、妹は、それぞれ大きなホールの異なる場所で盛大に拍手をする。口笛があちこちから飛ぶ。拍手の渦はなかなかおさまらなかった。

きっと窓の外は暗い。
曇り空は夜空に浮かんでいても、わたしはきっと星に気をとられる。
そこに自分の顔は微笑んでいる。きっと。

いま、このとき、1秒1秒。

※この物語は、2019年7月9日に渋谷ヒカリエで開催されたミルボンDA-AWARD-2019のイベントを見て作られたものです。日本、韓国、台湾、中国、マレーシアからファイナリストがこの日集結し、アジアNO.1を決めるコンテスト。

http://www.milbon.co.jp/education/da_award2019/


ダイジェスト動画はこちらから

文:奥間埜乃
写真:ミネシンゴ

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