SALON MODEL

ボイストレーナー、サロンモデル、そして母として。 仕事も家庭もあるからこその心のバランスとは

SALON MODEL | 2019.06.27

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サロンモデル、通称サロモ。美容師と作品づくりをするパートナーとして必要不可欠な存在だ。多くのサロモたちが所属する『Coupe』には、経歴、職種、十人十色の人生観をもったサロモたちがいる。

今回紹介するのは、えりこさん。ふたりの子どもを持つママサロモだ。25歳の時に最初の出産を経験。28歳の時には2人目が産まれ、現在33歳。主婦として日々奮闘している。


結婚前、えりこさんは音楽の世界にいた。ロックバンドのボーカルをはじめ、レコーディングアーティストやボイストレーナーとして活躍。全国流通のCDも何枚かリリースしている。

23歳でミュージシャンを引退すると、アメリカに留学し、LAにある有名大学のエクステンション(学外の市民を対象とした公開講座)に通いながらボイストレーニングを受けた。現地では、ゴスペルに出会って感銘を受けたという。

1年後に帰国し、留学前に婚約していた恋人と結婚。出産・育児を経験していくなかで、子どもとの時間がかけがえのないものになっていった。やがてリトミック(幼児音楽教育)の資格を取得。ボイストレーナーを再開させ、現在はキッズを対象としたゴスペル教室も開催している。

30分かけていたことを15分に。その積み重ね

ボイストレーナー、ゴスペル教室の先生、サロモ、そして育児。ふたりの子どもを育てながら同時進行でこれだけの仕事をこなすことは簡単ではない。いったい、どのように時間をつくっているのだろう? やはり基本は、無駄な時間をいかに削れるかが重要だという。

「たとえば、どんな服を着てどんなメイクをするか、前日のうちに決めておく。そうすれば、毎朝30分かけていたメイク時間が15分になる。家の掃除は一気にやるのではなく、毎日欠かさず少しずつやる。あらかじめやることを決めておけば、一つひとつのタスクは小さくなりますよね。ごく小さなことの積み重ねなんです」

それはたしかに正論だが、意志の強さが問われることでもあるだろう。えりこさんも、はじめはなかなか上手に時間を捻出することができなかったという。

転機は2度あった。1度目は、某有名テレビ番組で歌の仕事が入った時。まだ最初の子どもを出産して間もない時期で、充分な練習時間が取れず、結果、納得のいく仕事ができなかった。その時の後悔が強く残っているという。

しかし本当に大きかったのは、2人目の子どもを出産してから訪れた2度目の転機。仕事ではなくプライベートなことで、なおかつそれは、多くの主婦たちが経験している普遍的な痛みだった。

「横顔が老けたね」の一言で決断

幼い子どもをふたり抱え、家事と育児でいよいよ家に閉じ込もらざるを得なくなったえりこさんには、身だしなみに気をつかう余裕がなくなっていた。「外に出るわけでもないし、まあいっか」と思うことが増えていった。

この「まあいっか」が積み重なっていく。自分がどんどん歳を取っていってしまう気がした。えりこさんのなかに、少しずつ、モヤモヤとした焦りのようなものが溜まっていった。

そしてある時、夫が放った何気ない一言によって、えりこさんのモヤモヤは頂点に達したーーなんか、横顔が老けたね。

「そう言われた瞬間、きれいになろうと決意しました」

それから、「30分かけていたことを15分に」工夫してなんとか時間を捻出し、身だしなみをきれいにした。しかしそれだけでは現状維持にしかならない。では、どうしたか? 当時愛読していた雑誌『AneCan』誌上で、ママモデルが活躍していたことを思い出したのだった。

読者モデルに応募し、見事、審査を通過。さらに、モデル仲間が『マキア』の公式ブロガー(美容ブロガー)になったことを知り、これにも挑戦。かなり力を入れ、2016年度にはマキア公式ブロガーのなかでPV数第一位を叩き出し、えりこさんはトップブロガーとなった。

えりこさんAbema公式ブログ(https://ameblo.jp/ericoii07/)

人に撮ってもらうことで、あたらしい自分が見えてくる

サロモを始めたのはそのあと。マキア公式ブロガーの友だちがCoupeに所属していたことがきっかけだった。

「自撮りと他撮りって、やっぱり違うじゃないですか。自撮りは自分の好きな角度で撮れる。でもそれって、きれいになることに繋がっているのかなあ……という思いがあったんです。自分を向上させるためには他撮りの方が良いんじゃないか。人に撮ってもらうことであたらしい自分が見えてくるんじゃないか。そう思って、サロンモデルをやってみようと思ったんです」

サロモをはじめてみると、意外な発見があった。えりこさんの髪質は、美容師にとって「都合の良い」髪質だったのだ。柔らかくて癖があり、アイロンを入れないとツヤが出ない。自分にとってはセルフケアに苦労する髪だったのに、プロにとっては非常にやりがいのある髪だった。

だとしたら、もっと自分で自分を磨けば、さらに素敵な写真が撮れるのでは? そう思い始めたら、サロモが楽しくなった。

とはいえ、主婦であり母親であり、ボイストレーナーでありゴスペル教室の先生であり、美容ブロガーでもある。この並びにサロモが本格的に加わったことで、日々はさらに忙しいものになっていった。

「だから毎日、紙にタスクを書き出して、必要のないことはやらないようにしています。選択と集中ですね」

えりこさんの1日は、たとえばこんなふうだ。

早朝に起床し、朝6時には電車に乗る。7時にサロン到着。撮影を終え、ボイストレーナーの仕事へ向かう。電車のなかでブログを書き、インスタを更新。家に帰ってからは主婦に戻る。ひととおり家事を終えてから、ボイトレやゴスペル教室のレッスン企画を集中して考える。

ダラダラした時間はほとんどない。すべての行動に区切りをつける。当然、眠りにつく頃にはどっと疲れている。かなりハードなスケジュールに思えるが、そんな毎日が楽しい。

「髪の毛がきれいになるから、気分もあがるんです。それに、夫のサポートがあるからできているんだと思います。時々は料理もしてくれるし」

外に出て少しでも好きなことができるから、家事を頑張ろうと思える。

こうした生活を、えりこさんは数年間続けている。継続のコツは、心のバランスの取り方にあるようだ。

「家事だけやっていたら、退屈してしまうかもしれない。でもサロンモデルばかりやっていても、きっと気が詰まってしまう。音楽をやっていた二十代前半の頃も、打ち込みすぎて辛くなってしまったんです。今は、やっていること全部が良い意味で息抜きのようなものになっている。家事もサロモも音楽も、全部が趣味と言えるくらい楽しいんです」

えりこさんの話を聞いていると、ストイックに自分を律しているというより、良い妻であり良い母であり、自分らしい自分でいるためにサロモをやっているのだとわかる。

より良いこころの状態を保つためにいろんな自分を持つ、ということは、今後もっと推奨されて良い生き方だろう。

そのためにはやはり、パートナーの理解も必要だ。えりこさんの夫は、彼女のスタイルを肯定している。「サロモもボイトレも、誰もができる仕事ではない。その資格があるのならどんどんやればいい」そんな考え方を持った人だそう。

「夫がとてもまっすぐな人だから、自分もやりたいことをできるのかもしれません。彼の背中を見ていると、わたしもひとりでしっかり立たなきゃ、という気持ちになるんです。だから、あまり依存してはいないと思います。共感を求めるより、自分がやりたいことを頑張った方がいい。そうすれば自分のことを嫌いにならないから、お互いにとってもプラスなる」

依存していないーーある意味では、とても現代的な夫婦・家族のあり方なのかもしれない。しかし、よく考えてみれば当たり前のことだが、そもそも自立した人間でなければ、誰かと一緒に暮らすことなどできない。

「わたしの場合は、家庭が世界のすべてになると、自分が本当に小さい人間になってしまう気がしたんです。たとえば、靴下が床の上に落ちていただけで苛立って夫に当たってしまう。どんどん心が狭くなっていく実感がありました。でも外に出て少しでも好きなことができるようになったら、寛容な自分を取り戻せるようになった。そうすると”今日の晩御飯も頑張ってつくろう”と思えるんです」

主婦にこそ「きれいな自分を維持・向上できる」という選択肢を

ひとりの人間には、さまざまな側面がある。一面的な人間など存在しない。しかし日本の場合、一度家庭に入ると、主婦もしくは母親という役割だけで生きざるを得ないことが多い。

それが幸せと呼ばれていた時代もあった。しかし現代においては、こうした状況は、人によっては窮屈で息苦しく不自由なものであるだろう。

多様な生き方を選択できるように、また、こころのバランスを取って生きていけるように。

きれいな自分を維持・向上できること、あるいはやりたいことをやれる環境を確保することは、疑いもなく重要なことだ。そしてそれは社会全体の課題でもある。

えりこさんは取材後、「母親一本だと、やっぱりきついですね」と漏らした。まぎれもない本音だろう。

こうした本音が言いにくい世の中になってしまわないように、彼女のような生き方には、もっともっと光が当てられるべきではないだろうか。

えりこさんの話に耳を傾け、注意深く耳を澄ませていると、その向こうから、大勢の女性たちの声にならない声が聴こえてくる。

写真:ミネシンゴ
執筆:山田宗太朗

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