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ユニークなビジネスモデルに注目 ミルボンがポーター賞を受賞できた理由に迫る

REPORT | 2021.03.04

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2020年、ミルボンは一橋大学が主催する「ポーター賞」を受賞しました。ポーター賞とは、独自のすぐれた競争戦略やビジネスモデルを持ち、かつ持続的に高い収益性を達成している事業に贈られる賞です。その名前は競争戦略の第一人者、ハーバード大学教授のマイケル・E・ポーターに由来。2001年に創設以来、受賞した事業はビジネス界の注目を集め、多くの企業がその戦略から学ぶことでも知られています。

伊藤園やワークマン、星野リゾート、ほぼ日など名だたる企業が受賞してきたこの栄えある賞に、なぜミルボンは選ばれたのでしょうか? ミルボンを成長させ、時価総額2000億円超の企業へと押し上げた「競争戦略」とはどのようなものでしょうか? 


実際にポーター賞に応募した管理部の安藤大英氏と、安藤氏をサポートしつつ審査にも参加した管理部担当役員の村井氏に、受賞の裏側を聞きました(インタビュー、構成:田中裕子)。

「ユニークさ」と「成長性」を引っさげて応募した

—「ポーター賞」受賞、おめでとうございます! そもそもなぜこの賞に応募しようと思ったのか、きっかけを教えてください。

安藤 2019年に他社の方からポーター賞の存在を教えていただいたとき、すぐに「応募しよう」と思いました。ミルボンのビジネスモデルのユニークさには、自信があったので。

—ユニークさ、とは?

安藤 たとえば一般的な美容メーカーと違い、私たちは商品を百貨店やドラッグストアには卸しません。シャンプーもカラー剤も、美容室でしか扱わない。これはとてもめずらしい業態で、外部の方には「より大きなマーケットが狙えるのに、なぜ市販しないのか?」と首をかしげられることも少なくないんです。

村井 もちろん我々も、一般の市場は目に入ります。売上を伸ばそうと思ったらまず思いつく道でしょう。でも、ミルボンは「美容室だけ」と決めている。「美容室の増収増益につながること」、ここに集中してやってきました。

安藤 そんな方針を伝えると、「そんな会社があるんだ!」と驚かれるんですよね。つまりそれは、ユニークだということです。

そしてもうひとつ、選考基準に「持続的な収益性」が含まれていたのもポイントでした。じつはミルボンって、1996年に上場して以来、増収しつづけているんですよ。

—ということは、20年以上!? それはすごいことです。

安藤 これは3,800社程ある上場企業の中でもTOP10には入る長さだそうです。私自身、いち社員として「このビジネスモデルのユニークさと業績のよさは相関があるはずだ」と感じていましたし、ポーター賞をきっかけにより深く会社のことを理解したくて。そんな思いもあり、応募してみることにしました。

村井 私はまさか受賞できるなんて思わず、安藤から「ポーター賞を目指す」と言われたときは「本気か」と返しましたが(笑)。

—まさかの受賞に至ったと(笑)。実際に、どのような審査があったのでしょう?

安藤 一次審査では、論文の提出が求められました。論文を書くうえで必要な要素はいくつかありましたが、コアとなるのはやはり「ビジネスモデルの独自性」。そこでまず、社員へのヒアリングから始めることにしました。研究開発や生産といった、ふだんあまり接することのない部署の人にもアポを取り、彼らの語る「ミルボン」を徹底的に集めていった。

社歴の長い人にミルボンの歴史を聞き、他部署の人からは仕事内容や髪へのこだわりを聞き……。それらを整理して論文を書き上げ、さまざまな部署や役職の社員に読んでもらい、アドバイスや指摘を反映して何度も修正を加えていったんです。

—根気のいる作業ですね。通常業務と並行しての論文執筆は大変だったのでは?

安藤 そうですね(笑)。でも、書く中で理解もどんどん深まりましたし、「これはいけるぞ!」とより確信を持つようになりました。というのも、うちの社員にミルボンのミッションを聞くと、おもしろいほど同じ答えが返ってくるんです。創業からの歴史を振り返っても、コアの部分は変わっていない。

この「一貫性」はポーター賞の審査基準にもありましたし、圧倒的な強みだと感じましたね。

—ヒアリングした中で、印象的なお話はありましたか?

安藤 とくに、研究領域は知らないことばかりでした。日本の大学教授は全国におよそ7万人いるのですが、その中で毛髪を研究している学者ってたった1人しかいないという話とか(2014年時点)。

—ええっ! 日本にただ1人ですか!

安藤 ええ。ですから企業が独自に研究を進めなければならないわけですが、ミルボンはその研究への本気度が違った。

たとえば、国の大型放射光施設「SPring-8」を使っておこなった、「加齢による髪と頭皮の変化」の研究。この施設は厳密な使用制限があるため、研究員は昼夜交代制で3日間、1本の髪と向き合い、ひたすら実験を繰り返したそうです。この話を聞いたときは身内ながら感嘆しましたね。髪オタクというか(笑)、徹底しているなと。

—「髪オタク」の支えがあってこそのミルボンなんですね。

安藤 ほかにも毎年300人規模のモニター調査なども実施していますが、こうした研究はミルボンじゃないとできないと言ってもいいと思います。だって、「美容室のために」を突き詰めたところに、「もっと髪のことを知らないと」という切実な思いが生まれるわけですから。

ミルボンの何が評価されたのか?

安藤 そして二次審査ではポーター氏が提案する競争戦略のフレームワークに沿って論文をつくり、さらにインタビュー(面接)がおこなわれました。時節柄リモートでしたが、これは村井と経営戦略部長に任せっきりでした。(笑)

村井 はい。ただ、論文がよく書けていたため、インタビュアーもミルボンについて深く理解していただいていた印象でしたね。なので、比較的スムーズでした(笑)。

—その審査を経て、受賞が決まったわけですね。あらためて、具体的にどのようなビジネスモデルが評価されたのでしょうか?

村井 フィールドパーソンと呼ばれる営業が一軒ずつ美容室を回り、現場の美容師さんたちが抱える課題を共に解決する「フィールドパーソン(FP)システム」、そして顧客に熱く支持されている美容師のノウハウを製品に落とし込んでいく「TAC製品開発システム」といった仕組みですね。

そしてやはり、「美容室のために」という理念に基づいてすべての戦略を立てている「一貫性」。この理念こそが、ミルボンの成長のベースにあることは間違いありません。

—FPもTAC製品開発も、他社がぱっと真似できる仕組みではありません。

村井 そうですね。ミルボンは9ヶ月におよぶ新人研修を実施していて、この期間は実際に営業に出ることはなくとも正社員として給与を満額支払います。研修も重要な仕事の一部と捉えているからですが、この研修が始まった当時はこれがものすごい負担で、いよいよ首が回らなくなるところまで来たそうです。

でも、そこをくぐりぬけて30年以上、教育し続けている。積み重ねの財産は大きいです。

安藤 ほかに評価された点を挙げると、ポーター賞では「トレードオフ」も大事なポイントになっています。「やらない」と決めることによって、「やる」ことがより明確になる、ということです。

ミルボンの場合、美容室の増収増益につながること以外は「やらない」と決めています。まさに、ポーター氏が言うところのトレードオフ。戦略を絞っているわけです。

—なるほど。社内で「絞る」のやめよう、という話になったことはないのでしょうか?

村井 私が経営に携わる以前は出ていたようですが、試行錯誤して大失敗したりして(笑)、迷いがなくなったんですよね。現時点では、この理念やビジネスモデルを貫くことが結果につながると考えています。

もちろん、「未来永劫このままでいい」と考えているわけではありません。日本は人口減のトレンドですから、今後、売上を伸ばしていくのは簡単ではない。こうした社会の中で、これまでの戦略をどうアレンジして、よりよいものにアップデートしていくのか。何を捨て、何を選ぶのか。臆さず議論していきたいですね。

安藤 ただ、どのような戦略を選ぶにしても、「美容室のために」というところは変わらないと思います。たとえ髪以外の商品やサービスを展開するにしても、美容室という領域でやるだろうなと。逆に、こうした制限があるからこそ次のイノベーションも起こる気がします。

海を越え、柔軟に進化していく

—日本市場で売上ナンバーワンを獲り、ポーター賞を獲得したミルボン。これから何を目指し、どのように成長していくのでしょうか?

村井 海外展開がひとつの鍵になるでしょう。日本市場と同じように、世界でもナンバーワンを目指していく。これまではアジアを中心にビジネスを展開してきましたが、欧米にも本格的に挑戦していきたいと考えています。

ただし、欧米の市場はそう簡単ではありません。日本人とは髪色はもちろん、髪質も、文化も、人々の考え方も、多くのことが違うわけですから。ミルボンが育ててきた戦略性やビジネスモデルを武器に、しかし柔軟に、今後の動きを考えていくつもりです。

その国にフィットする独自のやり方を見つけ、世界中にミルボンを広げていく。長いスパンの話になりますが、今回ポーター賞で評価いただいた点をさらに磨き上げ、ひとつずつ着実に成功させていきたいですね。

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