
INTERVIEW
『大人髪のトリセツ』刊行から二年! 書籍編集者との対談企画|髪の「エイジングケア」をはじめよう!
髪と頭皮研究の第一人者として、メディアにも多数出演しているミルボン研究員・伊藤廉さんとともに、数々の髪の悩みを解明してきた連載企画。
第四回は、刊行から二年を迎えた伊藤廉さんの著書『大人髪のトリセツ』書籍編集者・長田和歌子さんをゲストに迎えての対談が実現! さらに進化を続ける、最新のヘアケアトレンドに迫ります。

伊藤 廉(いとう・れん)
大学卒業後、大学や国の研究機関での研究職を経て、2011年、ミルボン研究員に。基礎研究グループの責任者として、毛髪だけでなく安全性やヘルスケアなど新領域の研究にも取り組んでいる。東北大学特任准教授や社外研究員を兼務しながら、髪の専門家として全国を飛び回るすごい人。
長田 和歌子(ながた・わかこ)
大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスに。女性誌や美容誌などでスキンケアやヘアケア、メイクなど、美容ジャンルのエディター・ライターとして活動。現在は、雑誌での経験を活かし、書籍の編集にも携わる。
“髪のエイジング”を、深く、世に伝えるために

\書籍の内容について、詳しくはこちら!/
印象は髪がすべて 大人髪のトリセツ | 伊藤 廉 |本 | 通販 | Amazon
─お二人がタッグを組んだ『大人髪のトリセツ』発売から二年。あらためて書籍刊行にあたっての経緯を教えてください。

長田さん はじめてミルボンさんに取材をさせていただいたのは、女性誌の特集記事で“頭皮常在菌”をテーマにしたときでした。
かねてより、ニュースリリースで話題性のある研究の数々を目にしていて、「髪についてこんなことまで分かってきているんだ!」「髪っておもしろいな」とますます注目度があがっていた企業さんだったんです。
その後、研究所やSPring-8 *1(スプリングエイト)も見学させていただき、その基礎研究の深さにも驚きました。
*1 兵庫県に所在する国立の研究機関。世界最高性能の放射光を生み出すことができる大型放射光施設
書籍にできれば、雑誌の特集よりもテーマを絞って深掘りができます。また、これまでも白髪や抜け毛などに対するエイジングケアの書籍はありましたが、ツボやマッサージ、食事といったアプローチの本が多かったように思います。学術的かつエビデンスを持つ書籍を世に出して、一石を投じたい、という想いもありましたね。


伊藤さん とてもありがたいお話でした。僕がミルボンに入社してからもずっと、毛髪の研究自体があまり進められてこなかったことを実感していましたし、髪の毛がエイジングするという印象も世間に浸透していませんでした。“エイジング毛”という言葉を初めて単行本にしたのは、『大人髪のトリセツ』なのではないでしょうか。
近年では“エイジング毛”が一般的な言葉になって、広告などでも見かけるようになりました。美容師さんの間でも、エイジング対策をしていこうという意識が高まっているのを感じます。
また、発売してからの反響もたくさんありました! 一般の方が多く手に取ってくださったのはもちろん、研究職の知り合いからも、「研究者目線で読んでもいい本だね」と言ってもらえたのは嬉しかったですね。

─それまで、髪のエイジングケアについての専門的な書籍がなかったのはなぜなのでしょうか?

長田さん SPring-8まで使って、ここまで基礎研究に割いている論文や関連資料を見たことがありませんでした。最近では増えてきたものの、やっと客観的な事実ベースで書けることが増えてきたのがここ最近の話からだと思います。また、本来であれば、研究によって明らかになったメカニズムを学術的に丁寧に示しながら、髪や頭皮で何が起きているかを理解していただき、そのうえで「では、どのようなケアが適しているのか」といった具体的な方法までご紹介できればいいのですが……さまざまな法令の遵守を前提とする中で、研究成果と商品情報を結びつけて紹介することには一定の制約があるのも事実です。
本書では、白髪や抜け毛などのエイジング現象については日々のケアが大切であること、これからも続々とエイジング毛についての研究が切り拓かれていくこと、つまりは「遺伝や加齢で諦めないでほしい!」といったプラスのメッセージを最大限に込めるために、思い切って科学的根拠に基づいた内容に舵を切って世に出しました。
─ミルボンでは、新商品開発にも美容師さんが携わっていらっしゃったり、美容師さん向けの「ビューティソムリエ育成制度」がある等、髪を研究する美容メーカーとして“美容室と共に育っていく”という姿勢も特徴的ですよね。

伊藤さん 研究の数々が、プロ意識の高い美容師さんたちが日々使う知識やアイテムに繋がっていきます。研究者側からもブランディングしていかないといけないですし、知見や製品を高水準で提供するためにも、最先端・高性能の設備から研究成果を生み出していくことが大事だと考えています。
美容師と伴走する部署。ミルボンの教育企画部がサロンとともに描く未来| Find Your Beauty MAGAZINE (milbon.co.jp)


どう変化した? 最新のヘアケア市場
─ヘアケアへの意識向上が顕在化してきている気がします。お二人の知見から、あらためてヘアケアの「今」について伺わせてください。

長田さん 毛髪表面のコーティングではなく、内部を補修するといったアプローチの製品は今や各社から発売されていますよね。

伊藤さん そうですね。ドラッグストアのシャンプー売り場をよく見るのですが、種類も増えましたし、数年前より価格帯が上がったなという肌感覚があります。1,000円以上の製品も多く、「いいものであれば取り入れよう」と考える方が増えているんだな、と。
それは美容室での購買行動においても、おそらく同じです。ただ、僕らの主軸である美容室専売品は、まずは美容師さんに選ばれないとお店に置いてもらえません。ちゃんと美容師さんにいいと思ってもらえるような革新性のある研究をしていかなければ、とも感じていますね。

─書籍刊行後のミルボンの研究でいうと、“新たなアプローチでの育毛効果が実証された”というニュースがありましたね!

伊藤さん 2023年に発表した、“ヒトiPS細胞 *2”を活用して育毛成分の探索を行った研究ですね。実績が認められて、国際大会でもトップ 10 に選出されました。
*2 ヒトiPS細胞(induced Pluripotent Stem cell:人工多能性幹細胞)
ヒトの細胞に特定の遺伝子を導入することで、人工的に多能性(あらゆる種類の細胞に分化する能力)と自己複製能(無限に増殖する能力)を付与した細胞。京都大学 山中伸弥教授らが発明、2012年にノーベル医学・生理学賞を受賞。


伊藤さん 髪を生み出す源である「毛包幹細胞」は、不安定ゆえにそのものを用いた育毛研究は困難でした。そこで、ヒトiPS細胞を活用し、育毛効果が期待できる成分「トウキ根エキス」「モウソウチクたけのこ皮エキス」の選定に成功したという内容です。
\詳しくは、こちらの記事をチェック!/
育毛ケアに新たな可能性!? ~髪を生み出す“幹細胞研究”への新たな挑戦~| Find Your Beauty MAGAZINE (milbon.co.jp)

─美容室専売品、パブリック商品ともに選択肢が増え、消費者にとってもなにを基準に商品を選べばいいか不透明になっている気がします。自分の髪に合った商品を選ぶコツは?

長田さん まずは自分の現在地を知ることですね。どのように傷んでいると感じるのか、なにが原因なのかを探ること。老化なのか、外的な要因なのかでケアも違ってくるので、美容師さんに聞ける環境を作るのがベスト。濁さずにちゃんと伝えてくれる美容師さんを選ぶというのも大事だと思います。
ジプシー状態で美容室を渡り歩くよりも、信頼して相談ができて、ちょっとした髪の変化にも気づいてもらえる美容師さんがいると心強いですね。

─髪にも“かかりつけ医”のような美容師さんがいたほうが安心ということですね!
では、相性の合う美容師さんを見極めるには?

長田さん 髪の専門的知識をきちんと持っていること、そのうえで自分が理想とする髪型をちゃんと作ってくれるかどうかかな、と。
参考写真を持っていく場合は、自分とモデルさんでは髪質やもともとの髪型も違うので、できないことはできないと言ってくれて、現状の髪の状態を説明し、親身にアドバイスしてくれる人でしょうか。

伊藤さん 美容師さんからすると、アドバイスするのは押し売りになりかねないという心理もあったりするみたいですね。でも、お客さんは教えてほしいって思っている。そのギャップが埋まるといい関係になれるはずなので、簡単な質問でもしてみるのが吉です!

─ヘアケアトレンドは、今後どのように変遷していくと思いますか?

長田さん 昔のようにカリスマがいてトレンドを作るのではなく、好きなスタイルを個々に楽しむ時代ですよね。白髪に関しても絶対に染めるものではなく、ハイライトを入れてぼかしたり、グレイヘアを楽しんだりと多様性が生まれています。
おそらく間違いないのは、流行りのデザインが変わっても、髪が綺麗であること=美しさ、という意識の高まりは今後も変わることはない、ということ。
また、エイジング毛向け製品の精度も、ますます上がっていくはず。ミルボンさんには、白髪ケアができる製品をぜひ作ってほしい!


伊藤さん 僕は、若年層や小中学生にも髪への美容意識が広がっているなと感じています。本にも書きましたが、エイジングケアを始めるのは若ければ若いほどいいんです。まったくヘアケアをしないのは、肌に化粧水をずっとつけないのと一緒。きっと、そういった基本的な感覚がもっと浸透していくと思います。
新時代の美しさのために、メーカーができること

─現在は美容情報もSNSや検索エンジンで収集するのが主流ですが、ネット上には間違った情報も多いですよね。お二人の目にはどのように映っていますか?

長田さん 次は、検索ではなく、ChatGPTなどのAIに“聞く”時代になっていくと思います。
ChatGPTはネット上にある情報がソースですが、眉唾的な情報をある程度省いてくれるようになれば、正しい情報のみが手元に届く希望はありますよね。

伊藤さん それでいうと、僕らは論文や学会にて科学的に確かな情報を発表し、継続的にニュースリリースを打っていくなどにて、正しい情報をネットに置いていかないといけないですね。メーカーや研究者も、美容師さんも、正しくて新しい情報を発信して良質なアーカイブを残していく役割を担っていくのだと思います。
─では、最後に。長田さんが美容業界に対して、今後ミルボンというメーカーに期待することはなんでしょうか?


長田さん いま各社が研究を進めているテーマだと思いますが、白髪ケアの製品をぜひまっさきに開発していただけたらと思います。
これからも、エビデンスがしっかりした信頼できる情報を発信し続けていってほしいです。
そして、新たな知見が生まれたら、ぜひまたご一緒できたら嬉しいです!
─『大人髪のトリセツ』パート2にも期待しています! では、伊藤さん。ヘアケアの研究者としての理想の世界があれば教えてください。


伊藤さん 日本の美容メーカー全体のレベルが上がっていって、同業他社さんとも切磋琢磨して研究していける世界にしたいですね。ミルボンでは、僕の入社前には5本以下だった学会や論文発表数が、この10年で260本を超えました。僕一人の力では限りがありますが、研究を通じて少しでも業界にポジティブな流れを生み出し、美容業界全体が盛り上がっていけたら嬉しいです。
研究で終わる研究ではなく、人の、世の中の役に立てる成果を上げることが一番だと思うので、それを実現していくのが理想です!
─お二人とも、ありがとうございました!
