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切れ毛・うねりに終止符? ケラチンを“つなぎ直す”革新技術

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カラーやブリーチ、パーマなどのケミカルダメージによって傷んだ毛髪。ダメージが蓄積すると、毛髪のしなやかさやまとまりやすさは失われ、パサつきやうねり、切れ毛へとつながっていきます。その傷みの要因とも言えるのが、毛髪内部にある「ケラチン」の損傷です。ケラチンは強度やしなやかさ、水分保持などさまざまな機能を担う、毛髪にとって大切な成分のひとつ。

これまでの補修は表面的なケアや補修成分の“補給”が中心でしたが、ミルボンが注目したのは“ケラチン同士を強固な結合でつなぐ”という根本的なアプローチ。毛髪補修の新しい可能性を拓いた画期的な技術「タンパク質架橋テクノロジー」がどのように生まれたのか、研究員にお話を聞きました。

研究員 吉田さん

髪の“芯”を支える、ケラチンの存在

毛髪の80%以上を占めるのが、ケラチンと呼ばれるタンパク質。

タンパク質がもつ結合は、毛髪をしなやかに美しく保つうえで欠かせない存在です。
しかし、カラーやパーマなどのケミカル処理によって大切な結合が切断されてしまい、その後の洗髪時にタンパク質が流されて減っていってしまいます。
風船にたとえると、パンパンに膨らんでいた状態から空気が抜けて、ふにゃっとしぼんでしまうようなもの。
このタンパク質の減少によって、まとまりの悪さや切れ毛などの、トリートメントやスタイリングでも補いきれないダメージとなってあらわれ、進行すると切れ毛にもつながります。
しかも、一度切れた結合は自然には再結合することはありません。

ケアの概念を覆す「つなぎ直す」発想のはじまり

今回開発された技術は、毛髪内部にある“切れたタンパク質”の間に、「植物性フェノール化合物」を介して新たな橋渡し(架橋)を行う仕組みです。

これまで毛髪補修は失われた成分を補うことが中心でしたが、新たな視点で挑みました。

もちろん、タンパク質や脂質を補給するアプローチも有効なのですが、根本的に“毛髪タンパク質そのものの結合が切れている”状態に対処できれば、ケア効果をもっとあげられるのではないかと考えました。そこで、毛髪タンパク質の結合をつなぎ直すことに挑戦しました。

とはいえ、結合の再構築は簡単ではありません。過去にも試みられてはいたものの、人体に有害な成分を必要とするものも多く、実用化には至りませんでした。

今回開発した技術は、化粧品としての安全性と、確かな補修効果の両立がポイントです。この2つを同時に成立させるのが本当に難しかったですね。

では、その結合をどのようにつなぎ直すことができたのでしょうか。

まず着想を得たのは、私たちの生活にも身近な「紅茶」でした。

紅茶って、淹れると水の色が濃くなっていきますよね。あれはポリフェノールと呼ばれる植物性フェノール化合物同士が結合して色づいているんです。それを見たとき、“毛髪にも使えるかもしれない”と閃きました。

そこからさまざまな文献を調べはじめ、行き着いたのは、なんと蝶の羽化のメカニズム。

蝶などの昆虫が羽化するとき、最初は羽が柔らかく、時間が経つとしっかり硬くなりますよね。あの現象を調べるうちに、フェノール化合物が金属イオンのサポートを受けて、タンパク質に結合を形成していることがわかったんです。

人間の毛髪と昆虫はまるで別物に見えますが、「タンパク質の結合の重要性」には共通点があるといいます。

この自然界の“結合”をヒントに、毛髪の中でも同じような働きをするしくみが作れるのではないかと考えました。昆虫は羽化の際に、特定の成分を自ら分泌し、タンパク質の結合を促進させていますが、今回の研究では、そうした生体由来の分泌物や特別な環境条件を必要とせずに毛髪内部での結合を可能にする技術を開発できたことが、最も大きな特長だといえます。

こうして誕生したのが、「植物性フェノール化合物」を用いた、髪内部の新たな結合技術。

「植物性フェノール化合物」の一種である“チコリ酸”を多く含む、ムラサキバレンギクエキス

この技術では、ダメージしたタンパク質のすき間に橋をかけるようなイメージで結合を再構築します。内部からしっかり補強することで、毛髪の強度が回復します。

食品技術との出会いで進化した開発

実は今回の研究は、美容業界の知見だけではなく、食品分野との意外なつながりもありました。

植物性フェノール化合物とタンパク質の結合について知見があった大阪産業技術研究所にご協力いただき、うどんのコシやグミの弾力を高めるためのタンパク質架橋技術を参考にしました。タンパク質の強度を高めるという意味で、毛髪と共通する部分があったんです。

この技術は国際的な学会でも高く評価され、論文としても発表。今後は美容業界でのさらなる活用が期待されています。

では、実際にこの補修技術を受けた毛髪には、どのような実感が得られるのでしょうか。

ヘアカラー後、1〜2ヶ月もするとバサバサとした質感になってしまうことがありますが、この補修技術があるとまとまりやすくキレイな状態が続きます。また、引っ張ってしまった時に切れ毛が起きにくくなります。

使用を重ねることで結合の数が増え、補修効果も高まる設計。とはいえ、過剰に硬くなることはなく、必要なところに選択的に働くというのも特長です。

タンパク質架橋テクノロジー未処理・処理済の毛髪を
同時に引っ張った様子。処理済の毛髪は切れず、強度が高いことが分かる

与え続けると硬くなりすぎるのでは、という心配もありましたが、毛髪の状態に応じて必要な範囲で結合する性質があるんです。そのため扱いやすく、自然な仕上がりになります。

つまりこの技術の強みは、髪質や傷みレベルを問わず、適切に効果を発揮することにあります。

ダメージを受けた毛髪では結合が切れている部分に選択的に作用し、白髪やくせ毛、エイジング毛など、あらゆる髪質に対応できます。結合がほとんど切れていないバージン毛でも、必要以上に硬くなることはありません。

おわりに

毛髪を支える構造の再構築を、人体にも優しい成分で実現する。そんなタンパク質架橋テクノロジーは、まさに革新的な未来の補修ケアです。

研究の成果が現場で活かされるには、ただ効果があるだけでなく、サロンワークやホームケアでの“使いやすさ”を叶えることも大切。今回の技術も、化粧品に配合しやすい設計に仕上げ、さまざまな製品に活用されています。
今後は、より多くのヘアケア製品への応用を進めていくとのこと。毛髪の主成分であるケラチンそのものへのアプローチという根本的かつ新しい発想による技術は、ヘアケアの未来を大きく変えていく可能性を秘めています。

髪の悩みは、年齢やダメージの種類によってさまざま。
そんな一人ひとりの髪に寄り添う革新的な補修技術が誕生。
美容の現場から、未来のヘアケアが始まっています。

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取材・執筆 : 高橋あやな 写真:ミネシンゴ

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